軍事力を背景に圧力を強めるトランプ米大統領に対し、北朝鮮は弾道ミサイル発射という挑発で応じた。核・ミサイル開発に突き進む姿勢を改めて示す一方で、米国の軍事行動を誘発したり、中国が態度を硬化したりしかねない核実験や大陸間弾道ミサイル(ICBM)の試射は見送った。寸止めともいえる挑発は、米中など国際社会の「連携」を試している。
【ニューヨーク=永沢毅】朝鮮半島を巡る緊張が最も高まった朝鮮人民軍創建85年に当たる25日、大規模な砲撃訓練の実施にとどめた北朝鮮は、国際社会が北朝鮮問題を話し合った直後を狙って新たな挑発に動いた。だが29日に発射した弾道ミサイルは北東方向に飛び、内陸部に落ちた。圧力に屈しない姿勢を示しつつ、米国との全面衝突を避ける狙いも透ける。
トランプ米政権内では、北朝鮮が核実験や米本土を射程に入れるICBMの試射に動けば、看過できない「レッドライン」を越えたとして、武力行使に踏み切るべきだとの意見がくすぶる。
北朝鮮はぎりぎりの範囲で、米側の虎の尾を踏まぬようにしているようにみえる。今回のミサイル発射は失敗とみられることもあり、米国がすぐに軍事行動に出る様子はない。ただ米政権は軍事的な威嚇を続ける姿勢を緩めてはいない。米空母カール・ビンソンは29日に日本海に到達、韓国軍と合同演習を始めた。
中国への働きかけも一段と強める。28日、北朝鮮問題を協議した国連安全保障理事会の閣僚級会合。ティラーソン米国務長官は「北朝鮮の違法な行動を支援する第三国の団体・個人への制裁もためらわない」と強調。第三国の企業を制裁対象に加える「セカンダリー・サンクション(二次的制裁)」に言及した。
中国が手をこまぬいていれば、北朝鮮と取引のある中国企業に制裁を科すと示唆した発言だ。中国の銀行などの海外での活動が大幅に制限される恐れがあり、自国経済への影響を懸念する中国に行動を促す狙いがある。
もっとも、閣僚級会合で浮き彫りになったのは、米中をはじめとする主要国の温度差だった。
ティラーソン氏が「新しい制裁」を呼びかけると、岸田文雄外相も「圧力の強化を求める」と足並みをそろえた。これに対し、中国の王毅外相は「北朝鮮と米国は対話を再開すべきだ」と主張。影響力の行使を迫る米に対し「中国が問題の中心ではない」と反論した。ロシアのガチロフ外務次官も中国に同調した。
この会合の直後に起きた北朝鮮の弾道ミサイル発射は、国際社会の足並みの乱れを突いた形となった。米シンクタンクの科学国際安全保障研究所(ISIS)は28日、北朝鮮が2016年末時点で13~30個の核兵器を保有している可能性があるとの報告書を公表した。緊張はなお続いている。