5月のゴールデンウイークに横浜で開いたアジア開発銀行(ADB)総会。その機をとらえて総会との同時開催として4年ぶりの日本と東南アジア諸国連合(ASEAN)の財務相・中央銀行総裁会議が開かれた。
「域内の金融安全網の強化と現地通貨の使用促進」。ASEANとの会議後に日本の財務省が発表した成果文書が真っ先に挙げたのがこの項目だ。
具体的に「ASEAN域内で円の調達をしやすくすることは、域内の一層の金融安定に貢献」と、円の役割について明示している。域内の金融安全網の強化に際しても、円が登場する。
■中国が安全網拡充に消極的な理由
日本はASEAN諸国のうちインドネシア、フィリピン、シンガポール、タイの4カ国との間で、資金が困った時に提供する「2国間通貨スワップ(融通)取り決め」を結んでいる。その金額は合わせて407.6億ドル(約4.5兆円)。このスワップから、ドルばかりでなく「円での引き出しを可能にする」のだ。
さらにこの4.5兆円に加え、短期的な流動性(資金繰り)危機に対処するために、新たに最大4兆円規模の「スワップ取り決め」を結ぶ。新たなスワップからは円でもドルでも引き出せるようにする。
1997~98年の通貨危機で痛い目にあったアジア諸国は、域内で金融安定網を築いた。日中韓とASEAN諸国を結ぶ多面的なスワップ網で、「チェンマイ・イニシアチブ」と呼ばれる。金融危機に際しては、このイニシアチブを通じてドルを融通し合うのが、アジアの金融安全網の柱である。ドルを借りた新興国は、為替市場でドル売り・自国通貨買いの介入を実施し、自国通貨安を抑えるのだ。
米国の利上げに伴い新興国からの資金流出が懸念されるなか、ASEAN諸国はこのチェンマイ・イニシアチブの拡充を求めている。ところが中国が首を縦に振らない。困ったASEAN諸国が日本に協力を打診したのである。
普通なら大見えを切るはずの中国が金融協力に消極的なのには理由がある。一つは自身の外貨準備の手元不如意。足元の外貨準備は何とか3兆ドルの大台を保っているが、あの手この手で外貨流出を規制しているにすぎない。