ネット通販大手のアマゾンジャパンで申し込むことができる僧侶の手配サービスが始まった。このサービスが「宗教行為を商品化している」として、全国の主要宗派などでつくる全日本仏教会(全仏)が年明け、米アマゾン本社に対して文書でサイト掲載の中止を申し入れることが分かった。
アマゾンは今月上旬、葬儀社紹介サイト運営の「みんれび」(東京)が提供する僧侶の手配サービス「お坊さん便」をサイトに掲載しはじめた。サービス自体はみんれびが2年前に始めたもので、定額・追加料金なしで僧侶を法事や法要に仲介する。登録する僧侶は約400人で、主な宗派をそろえているという。仲介の実数は公表していないが、2014年は前年の3倍の受注があったとしている。
みんれびはサービスを広げようとアマゾンに「出品」した。売買されるのは僧侶の手配を約束するチケット(手配書)で、基本価格は税込み3万5千円。クレジットカード決済もできる。アマゾンやみんれびの手数料を除いた分が僧侶に「お布施」として入る。アマゾン経由でみんれびに10件以上の申し込みがあった。
これに対し全仏は24日、斎藤明聖(あきさと)理事長名で「宗教行為をサービスとして商品にし、宗教に対する姿勢に疑問と失望を禁じ得ない」との談話を発表。斎藤理事長は25日、朝日新聞の取材に「イスラム教圏であれキリスト教圏であれ、宗教行為を商品化している例はない。申し入れをアマゾンとの対話のきっかけにしたい」と話した。
アマゾンジャパン広報は「現時点でお答えできることはなく、コメントは控える」としている。(佐藤秀男)
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仏教界が神経をとがらせるのは、宗教行為の「商品化」や「ビジネス化」が広がると、宗教法人へのさまざまな税制優遇の根拠が揺らぎかねないと懸念しているからだ。
現状では、宗教法人が得るお布施は喜捨(きしゃ、寄付)とみなされ、法人は消費税を払わなくていい。僧侶個人が得たお布施は所得税の課税対象になるが、法人に入った場合は法人税が非課税だ。「お坊さん便」では、手配サービスを手がける「みんれび」側の所得は課税対象だが、僧侶側が取り分を納税するかは、僧侶側に委ねているという。
最近でも、都心のビル型納骨堂に東京都が固定資産税をかけたのに対し、宗教法人が「墓地と同様に非課税」と主張して都を提訴するなど、宗教とビジネスの課税上の「線引き」をめぐって税務当局と宗教法人は緊張関係にある。
全仏は、2009年に葬儀業に参入した大手スーパーのイオンが10年に寺院を紹介するサービスを始めた際も、「お布施が『ギャラ』のように表示され、寺が戒名を売買している印象も与える」などとして、料金表示の中止を申し入れた。現在イオンでは、対象は菩提(ぼだい)寺のない人に限ったもので、お布施は「目安」とホームページ上で明記。口頭でも説明している。
一方、「お坊さん便」への好意的な見方もある。川崎市の自営業の男性(67)は今年11月、92歳で亡くなった父親の葬儀で「お坊さん便」を利用した。普段、寺と付き合いがなく、葬儀社には「僧侶を呼ぶと20万円以上かかる」と言われたが、半額以下で済んだ。「お経は聞いても意味が分からないし、しっかり供養してくれたら誰に頼んでも大差ない。友達にもすすめたい」と話す。
サービスに前向きな僧侶もいる。中国地方の寺で住職をしている40代男性は、数年前から首都圏に部屋を借り、「出稼ぎ」に来ている。「お坊さん便」だけでなく、知り合いの僧侶や葬儀社から声がかかれば、葬儀や法事に出かける。過疎が進む地元では経済的にやっていけないからだ。檀家(だんか)は数十軒しかなく、葬儀は年に1度あるかないか。地元にいるのは1年のうち3分の1ほど。「田舎で家族と暮らせればいいが、それではとてもやっていけない」と嘆く。
みんれびに登録する曹洞宗見性院(埼玉県熊谷市)の橋本英樹住職(50)は「異論は承知の上。批判にさらされることで、仏教界に必要なことが見えてくる」と前向きだ。みんれびの秋田将志副社長兼COO(30)は「経済的に苦しい僧侶が多いと肌で感じており、利用者のニーズも高い。仏教界とは共存共栄していきたい」と話す。