政府は議決権の過半を持つ東京電力ホールディングスの経営陣を刷新する方針だ。数土文夫会長(76)の後任として日立製作所の川村隆名誉会長(77)に就任を打診した。川村氏は政府の有識者会議の委員として東電改革に関わってきた。21.5兆円にのぼる福島第1原子力発電所の廃炉・賠償費用の捻出に向け、新体制で改革を加速する。
川村隆氏
複数の関係者によると、有識者会議が昨年12月に他社との事業再編・統合などを東電に求める提言をまとめたあと、政府側から要請した。川村氏も就任に前向きとみられる。数土氏以外の多くの取締役も代わる方向。東電の指名委員会が正式に決め、6月の株主総会を経て新体制が発足する。
川村氏は日立がリーマン・ショック後に経営不振に陥った2009年に69歳で社長に就いた。会長を退くまでの5年間で、日立グループを過去最高益を出すまでに復活させた経営手腕には定評がある。日立は原発製造を手がけており、福島第1原発の廃炉・汚染水対策にもかかわっている。
川村氏と同じ有識者会議の委員で経営共創基盤の最高経営責任者(CEO)の冨山和彦氏(56)らが新たな社外取締役の候補に挙がる。生え抜きの取締役や執行役は若返りを図る。広瀬直己社長(64)の処遇も焦点だ。
政府は福島第1原発事故の翌年の12年に東電株式の50.1%(議決権ベース)を取得して実質的に国有化した。14年にJFEホールディングス出身の数土氏を会長に据え、中部電力と燃料調達事業を統合したり、業界でいち早く持ち株会社制に移行したりする経営改革を進めてきた。
一方、原発事故から6年たったいまも事故の収束は見えない。被災者への賠償費用は膨らみ続け、溶け落ちた核燃料(デブリ)はどこにあるかさえ分からない。経済産業省は昨年末、廃炉や賠償の総費用が21.5兆円と従来想定の2倍に膨らむ推計を明らかにした。
これまでの延長線上の改革では賄えない規模になったため、東電は4月にも改定する経営再建計画に送配電や原子力事業を他社と再編・統合する方針を盛り込む。改革の局面が変わるのにあわせ、経営陣を刷新する。