敵基地攻撃能力の保有検討へ 防衛省、北朝鮮脅威受け
18年夏メド結論、国内外から懸念も
- 2017/8/5 6:44
- 日本経済新聞(メルマガコピペ)
防衛省は敵国の弾道ミサイル発射基地などを攻撃する敵基地攻撃能力の保有の是非をめぐり、近く議論を始める。来年末にも予定する防衛大綱の見直しに合わせ、北朝鮮の核・ミサイルへの抑止力として将来導入できないかを検討する。近隣諸国の反発だけでなく、国内でも議論を呼ぶ可能性が高い。
敵基地攻撃能力は、巡航ミサイルなどで敵国の基地をたたく装備。護衛艦などから発射する米国の巡航ミサイル「トマホーク」や、戦闘機から地上を攻撃する空対地ミサイルなどがある。「専守防衛」を掲げる日本は戦後、他国を攻撃する装備を持ったことはない。
専守防衛は「攻撃を受けたときに、初めて防衛力を行使し、その力は自衛のための必要最小限にとどめる」ことを指す。
ただ1956年、鳩山一郎首相は「(我が国に)攻撃が行われた場合、座して自滅を待つことを憲法は規定しない」と答弁。政府は、攻撃を防ぐため「他に手段がない場合」は、敵基地を攻撃することは自衛の範囲内、との見解を示してきた。
政府は過去の国会答弁でも、敵国が日本に対し攻撃の意思表示をしたり、ミサイル攻撃の準備・兆候が判明したりした場合に敵基地攻撃は認められる、と説明してきた。とはいえ、防衛省が公式に検討を始めれば、国内外から「専守防衛方針を超えるのでは」と議論を呼ぶ可能性が高い。
政府・与党内では、具体的な装備として米国の「トマホーク」の配備を求める声が上がっている。その場合は米国が価格や納期に主導権を持つ「対外有償軍事援助(FMS)」契約を使う。
防衛省が検討を急ぐ背景には核・ミサイル開発を進める北朝鮮の存在がある。北朝鮮は今年に入り大陸間弾道ミサイル(ICBM)や、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を地上配備型にした新型ミサイルを発射。核の小型化も進めている。
これを受け、自民党安全保障調査会は3月、敵基地攻撃能力の保有を政府に提言。政府に「ただちに検討を開始すること」を求めた。同提言を主導したのが、今月3日に防衛相に就任した小野寺五典氏だった。防衛省は同提言を参考に、小野寺氏の下で具体的な課題を整理する見通しだ。
安倍晋三首相も3日、北朝鮮への懸念の高まりを受け、小野寺氏に防衛大綱の見直し検討を指示した。政府は2018年末に新たに中期防衛力整備計画(中期防)をつくる予定。中期防は5年、防衛大綱は10年程度の方針を定める。防衛省は中期防にあわせて大綱を見直し、敵基地攻撃能力保有の明記を目指す。
大綱見直しの方針は19年度予算に反映させるため、防衛省は18年夏の概算要求までに敵基地攻撃能力の保有の是非の結論を出す考えだ。
小野寺氏は4日、日本経済新聞社などのインタビューで「北朝鮮のミサイル技術が進展している」と強調。敵基地攻撃能力に関しては「弾道ミサイル防衛にいま何が必要なのかを突き詰める」と述べた。自民党の提言についても「しっかりと検討状況を聴取する。問題意識と危機感をもって検討を進める」と話した。