楽天が14日、携帯電話事業への参入を発表した。株式市場の評価は「今さら参入したところで採算がとれるのか?」(外資系運用会社)といった懐疑的な見方が大勢で、14日の楽天の株価は一時、5%安の1084円とほぼ9カ月ぶりの安値を付けた。確かにNTTドコモなど大手3社の牙城を切り崩すのは容易でないし、設備装置に使うため新たに有利子負債が総額6000億円も増加することを懸念する声も多い。だが、携帯電話の事業特性に焦点を当てれば、市場の反応がやや短絡的である可能性も浮上する。キーワードはキャッシュフロー(CF)だ。
携帯電話参入を発表した14日、市場の評価は芳しくなかったが…
まず楽天のCF計算書を見てみよう。14年12月期をピークに営業キャッシュフローは2年連続で減少し、16年12月期は307億円と2年前のほぼ4分の1に減った。ネット通販で米アマゾン・ドット・コムなどへの対抗策としてポイント費用の負担が増えたほか、クレジットカードなど金融事業の貸付金が拡大したのが主要因だ。ピークの14年12月期の前年の営業CFはわずか14億円と、変動が大きいのも特徴だ。
変動の大きい営業CFを安定させるには、携帯電話事業は極めて魅力的。それは携帯大手のCF計算書を見れば一目瞭然だ。NTTドコモ、KDDI,ソフトバンクグループはいずれも、過去3年間の営業キャッシュが1兆円前後で安定している。多額の海外投資を続けるソフトバンクを除けば、ドコモ、KDDIはフリーキャッシュフローも毎年数千億円のプラスと、手元資金も着実に増やしている。
携帯電話事業は、利用者が基本料金など毎月一定額を必ず支払う。通信量が多いスマートフォンの普及によって、従来型携帯電話と比べて利用料金も上がった。電気やガス料金とは異なり、季節変動も小さい。一定の利用者を確保できれば、安定したCFを生み出せるビジネスだ。
「楽天市場」を中心とするEC事業は、アマゾンとの競争激化で収益性が悪化している。楽天は今後もECを旗艦ビジネスと位置付けるが、ポイント付与を増やしたりフリマアプリなどの新分野を強化したりするための「軍資金」を手当てするには、安定してまとまったキャッシュを稼ぎ出す仕組みが必要だ。
ある外資系証券のアナリストは「携帯電話事業が加わることで楽天全体の収益が上がるなら、仮に携帯事業単体の損益がマイナスでもまったく問題ない」と分析する。採算を二の次にしてでも、楽天が大手3社から顧客を奪い取りに行くという戦略は十分、考えられる。14日の株式市場で携帯3社の株価がそろって2%強下がったのは、このシナリオを警戒したからだろう。
楽天は14日に開催したアナリスト向けの電話説明会で「携帯電話事業単体でもきちっと利益を上げるつもりだ」(山田善久副社長)と説明した。この説明に偽りはないだろう。だが、斜に構えた見方をすれば、携帯電話を「収益の柱にする」との説明はなかった。
楽天の主眼はあくまで「楽天経済圏」の維持・拡大にあり、携帯電話参入は安定したCFの獲得が目的――。このストーリーが真実味を帯びれば帯びるほど、楽天の携帯電話ビジネスは侮れない存在になる。
@遠藤賢介