札幌市が「指定緊急避難場所」とする298の市立小中学校で、災害の際、職員到着前でも住民が逃げ込めるよう、暗証番号を打ち込んで鍵を取り出すキーボックスが配置されているにもかかわらず、9月6日未明の胆振東部地震直後に活用されたのは3校にとどまることが分かった。市の周知不足のためだが、防犯上の懸念から広報には消極的で、専門家は「町内会などに番号を知らせておくべきだ」と指摘している。
指定緊急避難場所は洪水や地震などから身を守るため避難する施設。キーボックスは、緊急時に区役所の当直者に電話し、暗証番号を聞いて打ち込み、玄関の鍵を取り出す仕組みだ。2014年秋の豪雨災害で避難場所が開けない例が相次ぎ、市が16年に308万円かけて全校の玄関に設けた。
今回の地震では北区の屯田小と北辰中、白石区の上白石小の3校で、発生後1~2時間で住民が自ら鍵を開けて避難できた。市によると使用は初めて。
屯田小の学校運営に携わる学校評議員の松井敦利さん(55)=飲食店経営=は、学校の状況が気になり地震直後に向かった。すると真っ暗な玄関前で2世帯が解錠を待っていた。
8月の防災訓練でキーボックスがあると聞いた松井さんは、新保元康校長に電話し「避難者がいる。どうやって入れるか」と暗証番号を尋ねたが分からなかった。
松井さんは小型ライトを頼りに表示板に記された北区災害対策本部に電話。電話が通じ、番号を知らせる折り返し連絡を受けるまで、50分近くかかった。
入った後も、松井さんは駆け付けた校長と毛布など備品を探したが、何が配備されているか分からず、手探り状態だった。松井さんは「電話が通じづらく困惑した。備品の場所や必要な手続きを示すマニュアルもあれば助かった」と振り返る。
職員が地震後すぐ駆け付けたが、すでに住民が待っていた学校も。元町小(東区)では、用務員の伊丹博彦さん(44)が午前4時ごろ学校に着くと約10人が待機。全員がキーボックスを知らなかったという。北区の学校に避難したが入れず、区役所で一時を過ごした住民は「避難所なのに避難できないなんて意味がない」と話した。
キーボックスが使われなかった要因は周知不足だ。市は町内会の防災訓練などで活用を呼びかけているというが、防犯上の懸念から「積極的に広報していない」(市危機管理対策室)のが実情だ。キーボックスの存在を示す表示板も縦10センチ横20センチほどで小さい。
市は全域停電(ブラックアウト)という今回の事態を想定しておらず、中央区役所のように電話が不通となった場合、暗証番号を聞けないことも分かった。
防災に詳しい釧路公立大の皆月昭則教授(災害避難学)は「避難場所確保は最優先」と強調。緊急時は自治体の対応に限界があるとし、「積極周知しないのは住民への不信感が背景。信頼関係を築き、町内会役員に暗証番号を伝えておくなど、対応策が必要だ」と指摘した。
(新しい目線)